

統合報告書を毎年発行しているのに成果が見えない――その原因は未来の姿が具体化されていないせいかもしれません
この記事では、冒頭の数節で統合報告書にまつわる問題点のいくつかを概観し、つづく第7および8節で、その解決策として弊社が実践している方法をご紹介します。
1 統合報告書にまつわる問題
1. 統合報告書を出しているのに、思うような成果が出ない
「統合報告書は毎年発行している」「ESG情報も充実している」「制作費も時間もかけている」。それにもかかわらず、期待していた成果につながらない――そんな悩みを抱える企業は少なくありません。
例えば、
投資家との対話が思うように深まらない
採用活動への効果が見えない
社員もあまり読んでいない
発行後の反響が限定的である
毎年同じような内容になってしまう
などなど、多くの場合、求められる情報は十分に掲載されています。
しかし、読者が本当に知りたいのは、個別の情報そのものだけではありません。
「なぜこの会社は存在するのか」
「何を強みとしているのか」
「どこへ向かおうとしているのか」
これらが伝わらなければ、どれだけ多くの情報が掲載されていても印象に残りにくくなります。いうなれば、点と点を結び付ける線がなければ、いくらたくさんの点を配置しても全体の図形はわかりません。
問題は情報量の不足ではなく、それらを結び付けるストーリーの不在にあるのです。
3. 統合報告書は本来、価値創造ストーリーを伝える媒体である
統合報告書は単なる活動報告書ではありません。
本来は、
当社は何のために存在しているのか
過去に何を築いてきたのか
現在どのような強みを持っているのか
将来どのような価値を生み出そうとしているのか
を一つのストーリーとして伝える媒体です。統合報告書に関する文脈では、このようなストーリーを「価値創造ストーリー」と言います。財務情報と非財務情報を統合し、企業価値創造のプロセスを示すことが統合報告書の本質です。
だからこそ、個別の施策や実績だけではなく、それらがどのように企業の将来の価値につながるのかを示す必要があります。
4. なぜ、伝わる価値創造ストーリーを作ることが難しいのか
では、なぜ多くの企業で価値創造ストーリーが十分に構築できないのでしょうか。
代表的な課題として、次の四つが挙げられます。
問題① 自社の提供価値が整理されていない
顧客に何を提供している会社なのか、明確に言語化されておらず、また社内で共有もされていない状態です。
問題② 将来の事業環境について共通認識がない
市場や社会がどう変化するのか、社員の間でも見解が一致していないケースがあります。
問題③ 部門ごとに語る内容が違う
人事、営業、開発、サステナビリティ部門などが、それぞれ異なる方向を向いて情報発信してしまうことがあります。
これは課題①や課題②の結果として派生するものでもあります。
問題④ 中計や他のIRツールとの連携が薄い
中期経営計画(以降、中計という)は、現在地から近い未来に目指す状態に到達するために、既存リソースをどのように用いて、新たにどのようなリソースを調達し、どのような事業活動を行うかを具体的に説明します。そこにはもちろん、計画の裏付けとなる数字も含まれます。中計の内容を統合報告書の紙面に反映しないと、説得力が不十分になります。
その結果、「良いことはたくさん書いてあるが、結局どんな会社なのか印象に残らない報告書」になってしまいます。
という流れで進みます。
もちろんこれらは重要な工程です。しかし、このプロセスだけで完結してしまうと、前年の内容を更新するだけの「編集作業」になりがちです。
統合報告書は本来、企業価値創造の考え方を整理し、社内外との対話を促進するためのものです。
制作工程だけに注力すると、企業の本質的な価値を十分に引き出せなくなります。
また統合報告書で想定する未来も、現在からの延長線上に考えた(フォアキャスティング)ものになってしまい、ありきたりなものになりがちです。
6. 本当に必要なのは、制作前の対話である
統合報告書の質を大きく左右するのは、実は制作が始まる前の対話です。
まず整理すべきなのは、
自社は何を提供している会社なのか
競争優位はどこにあるのか
顧客や社会から何を期待されているのか
将来どのような価値を生み出そうとしているのか
2 解決策
7.提供価値の棚卸しで見えてくるもの
私たちは統合報告書制作の前段階として、「提供価値の棚卸し」を支援しています。
棚卸しする対象は例えば、
顧客が当社を選ぶ理由
他社にはまねしにくい技術や強み
長年の経験で蓄積したノウハウ
取引先や地域社会からどのように評価されているか
活躍している人材、人材育成における強み
当社らしさを生み出している考え方や行動の仕方(組織文化)
などです。
実際に対話を進めると、経営陣と現場で認識が異なるケースも少なくありません。
経営陣は技術力を強みだと考えていても、顧客は営業の対応力を評価しているかもしれません。現場は長年培われた文化こそが競争優位だと考えている場合もあります。
こうした認識を洗い出し、言語化することで、自社ならではの価値創造ストーリーの土台が形成されます。
<提供価値の棚卸しを行った事例>
・『設立20周年を機に、ブランドイメージを刷新』(ソフトウェア開発会社)
・『心から目指したいと思えるビジョンをワークショップでつくる』(経営コンサルティング会社)
8. 未来から逆算する
もう一つ重要なのが、会社の未来の姿、目指すべき将来像です。ただし、フィーリングや希望だけで「こういう会社になっていたい」と考えても、投資家に対して説得力をもつことは難しいでしょう。
そこで、シナリオプランニングという方法を活用することを推奨します。将来社会はどのようになっているか、そこで自分達はどんな事業をやっているかを、順を追って考えていきます。
現在は変化のスピードが非常に速く、過去と現在からの延長線上だけでは将来を描けません。
未来の不確実性を増す要因としては、たとえば以下のようなものがあります。
など
シナリオプランニングでは、複数の未来を想定しながら、
どのようなリスクがあるのか
どのような機会が生まれるのか
何に投資すべきなのか
を検討します。
未来から逆算して考えることで、中長期戦略の説得力が大きく向上します。たとえば、「30年後の会社の姿」を想定した上で、5年後には何が必要か、10年後には何が必要かを考えます。いわゆる「バックキャスティング」という考え方です。
<統合報告書制作におけるシナリオ・プランニング実施の効果>
3 結び:より良い統合報告書を目指して
9. その結果、統合報告書が経営戦略を語れるようになる
提供価値の棚卸しとシナリオプランニングを行うことで、統合報告書の内容は大きく変わります。
例えば、
トップメッセージが具体的になる
中長期戦略が明確になる
人的資本投資の意味がつながる
投資家との対話が深まる
社員が自社の方向性を理解しやすくなる
といった変化が期待できます。一言で言えば、未来の姿が具体的になります。
報告書全体に一貫したストーリーが生まれるため、単なる情報開示資料ではなく、企業価値創造を説明する戦略ツールとして機能するようになります。
ここまでお読みいただければ容易に想像できますが、このことはもちろん統合報告書作成以外の場面でもメリットがあります。たとえば中期経営計画を策定する際もこのような検討過程を経ることができれば、従来のようにフォアキャスティングで策定する場合に比べて、より広い視野と豊かな発想を盛り込めるのではないでしょうか。
10. 統合報告書を「作る」から「活かす」へ
統合報告書は発行すること自体が目的ではありません。
企業価値向上に向けて、投資家、顧客、社員、取引先などのステークホルダーと対話するためのツールです。
そのためには、制作工程だけでなく、
提供価値の棚卸し
未来の姿の具体化
といった上流工程に取り組み、価値創造ストーリーを明確にすることが重要です。
私たちは、統合報告書の企画・編集・デザインだけでなく、提供価値の棚卸しや経営戦略の可視化、シナリオプランニングを活用した「未来の姿」の具体化の支援まで含めて伴走しています。
「毎年発行しているが成果が見えない」
「もっと経営戦略を伝えられる報告書にしたい」
そのような課題をお持ちでしたら、ぜひ一度ご相談ください。統合報告書を“作る”だけでなく、“活かす”ためのご支援をご提供します。
執筆:能藤 / 監修:宮下










