

産業機器のUX課題に挑む。ユーザーテストを軸にしたUIデザイン改善プロジェクト
#UX/UI
株式会社 共和電業 さま
計測機器メーカーとして知られる株式会社 共和電業さまの新たな測定器開発プロジェクトを、テイ・デイ・エスのUX/UIチームが支援させていただきました。この記事では、プロジェクトの概要や進め方、現場での工夫、発見や示唆などについて振り返り座談会をした様子を紹介します。
対応内容 | 測定機器のユーザーテスト、UIデザイン |
---|---|
期間 | 約7ヶ月 |
エンジニアリングの現場で使用される測定器は、高度な機能性が求められる一方で、特殊な環境下での操作が多いことから「状況に合わせた使いやすさ」も製品の重要な要素といえます。
今回、テイ・デイ・エスのUX/UIチームは、計測機器メーカーとして知られる共和電業さまの測定器のデザイン支援をさせていただきました。プロジェクトでは、2024年8月から翌年3月にかけて、要件整理、デザイン制作、ユーザーテストなど一連の工程を実施。従来機の機能性やユーザビリティをアップデートした新たな測定器のUIデザインを作成しました。
この記事では、ユーザーテストを起点としたUI改善やその工程で得られた各自の知見について、振り返り座談会を行った様子を紹介します。
<株式会社 共和電業さま> ※写真左から順(プロジェクトの役割)
河野さま(デザイナー)/犬伏さま(ハードウェアエンジニア)/堀内さま(ソフトウェアエンジニア)/
魚住さま(プロジェクト統括)/ヒズミン(マスコット)
<株式会社 テイ・デイ・エス> ※写真左から順(プロジェクトの役割)
池田(プロデューサー)/中村(UIデザイナー)/内藤(リサーチャー)
━当初の課題感やテイ・デイ・エスにご依頼いただけた経緯を教えてください。
<犬伏さま>
展示会が最初の出会いでした。別の目的で展示会に参加していたのですが、偶然テイ・デイ・エスさんのブースに立ち寄った際に、デザインのプロフェッショナルだと感じたので相談をしました。
当社はデザイナーが河野一人なので、今回のようなプロジェクトでプロダクトとUIのデザインを一人で担当するのは負担が大きく、業務分担できないかと考えていました。UIデザインを外部に依頼するのは今回が初めての試みでした。
<河野さま>
プロダクトデザインについては普段から情報収集をしたり先輩からノウハウを学んだこともありましたが、UIデザインについてはこれまで会社として重視しておらず、プロダクトのついでにデザインするという考えでした。そのため自分自身のUIデザインのレベルも把握できておらず、今回テイ・デイ・エスさんに協力してもらうことで、課題を明確にしたいという思いもありました。
<魚住さま>
もともと当社はエンジニアリング重視で、ハードウェア・ソフトウェアのエンジニアしかおらず、UIデザインも開発担当者がシステムの一環として対応していたので「使えれば良い」という考えが中心でした。デザインに力を入れ始めたのはここ10年ほどで、最近ようやく河野が中心となり、共通パーツや色などで統一した操作感を意識するようになってきたところなんです。
<河野さま>
今回について言えば、実はユーザビリティ面の具体的な課題を事前に把握できていませんでした。というのもユーザー調査をしたことはあるのですが、長年使っていただけているユーザーが多く「慣れているのでこのままでいい」と満足している声が多いからです。
ただ、世の家電や製品と比べると見た目や使い勝手が良いとは言えず、ユーザビリティの向上によって既存ユーザーの満足度を上げ、初心者にも使いやすさを提供したい。それが共和電業のブランドとして重要だと考えました。
━こうした課題にどのようなプロセスや工夫で取り組みましたか?
<中村>
当初、展示会で聞いていた課題感から想定されるポイントを整理し、UIデザインやUXライティングで解決できる内容やウォークスルーやユーザーテストを組み込んだプロセスなどをご提案をしました。
<河野さま>
そうでしたね。私もユーザーテストの必要性は感じていたので、プロトタイプで改善を重ねるプロセスを提案いただき、安心感を感じました。加えて事例なども紹介いただき、同様のレベルのデザインに仕上がるという期待感も持てました。
<池田>
今回、私たちが普段触れることのない製品でしたので、製品理解をしっかりとするために実機を借りてインプットに力を入れました。その上で、計測器のサイズ感の紙にデザインを並べたペーパープロトを使って、操作や動きをみんなで議論しながらデザインを起こしました。
<内藤>
その後、起こしたデザインをプロトタイプとしてユーザーテストを通してブラッシュアップしました。長く使われている製品なので、既存ユーザーとこれから使う初心者の両方の使い勝手を良くするため、使用方法の差分を抽出して改善のヒントにしました。
━今回のUIデザインのポイントや皆さんの初見の感想も教えてください。
<中村>
ポイントとしては、河野さんと週次でミーティングを重ね、「初めて使うユーザーにも使いやすい」「正確性・効率性を重視」というテーマで進めました。先ほどの河野さんのお話のように既存ユーザーと初心者の両方に対応するので、「とっつきやすさ」のレベルとして「プロ野球より草野球」という話をしたのがとても印象に残っています。
野球を知らない素人向けではないけれど、プロ野球ほど玄人向けでもないとっつきやすさを目指そうという話になりましたね(笑)
<河野さま>
しましたね(笑)目指すデザインになったと思います。最初にデザインを見せていただいた印象は、綺麗で無駄のないデザインだと感じました。というのは、設定画面の複雑な階層やグループが最小限の色数で表現されていて、一つのデザインテーマの中で上手くまとめられいました。
おそらく私一人だと整理しきれなかったと思うので、表現方法の学びになりましたし、デザインを依頼したメリットを感じました。それと進め方も密に話し合いながらまとめてくれるスタイルで、安心感がありました。
<犬伏さま>
私の最初の印象は、まず見た目が格好いいというのと、操作性がきちんと考えられていて洗練されている印象です。これまでの測定器とは一線を画していたので、既存製品との違いが分かりやすく内外に良いアピールになると感じました。
<堀内さま>
開発者としてはつい機能を盛り込みがちになるのですが、今回のUIは必要な機能はわかりやすくあるのに詰め込みすぎの印象がなく整理されていましたよね。例えばグラフの配色を1本ずつ変えると思っていたんですが、パターン性を用いることで、限られた配色でわかりやすさも実現できていて、弊社にないアイデアだなと思いました。
<池田>
実機を使うたびに新たな機能を発見するほど本当に多機能な測定器だったので、本当に使うべき機能にユーザーに気付いてもらうことに配慮してデザインしました。あとは専門用語で難しく感じるポイントが多く、平易な表現や使い方を簡単そうに見せることを意識しました。
<魚住さま>
被験者の方々にデザインの感想を聞いたのですが、操作の経験のある被験者からは「極端に使い方を変えず既存製品の良かった点を維持して、使いにくい部分が改善されている」と高評価でした。初めて操作した被験者からも「非常に使いやすかった」という評価をいただいています。
<中村>
とても嬉しいです。毎週の定例で皆さんとデザインを議論したり意見の反映や改善を繰り返したので、共和電業さんと一緒に作り上げたものだと思っています。皆さんに納得していただけるものになってよかったです。
━ユーザーテストの概要やその時の様子を教えていただけますか?
<池田>
今回のテストは、操作経験者と初めて操作する方の両方に複数名参加していただき、車の走行テストコースを数周しながら特定操作を行うシナリオでテストしました。観点として「走行中どのように測定器が使われているのか」「仮説で作ったプロトタイプが適切に操作できるか」の2軸を見ました。前半はユーザーの「体験面」、後半は「使い勝手や機能面」を特に確認しました。
<堀内さま>
先ほども話していたように測定器が多機能なのでどのユースケースでテストするべきか非常に悩みましたが、主要なケースを絞っていただいて、効率よくたくさんの課題が抽出できました。
<犬伏さま>
私はユーザーテスト自体を初めて見たのですが、「はっきりと操作上の課題が洗い出せるもなんだな」という感想です。被験者が操作に詰まる箇所が皆さん共通していたので、改善点が明確になりましたね。
<河野さま>
そうでしたね。あとは内藤さんの質問や会話がスムーズで場慣れを感じました。堅苦しくない雰囲気にうまく誘導してくれて、被験者も徐々に緊張が解けて意見を言いやすそうでした。進行面も参考になりました。
<内藤>
初対面のテストはどうしても緊張しやすいので、雰囲気作りには気を配りました。早口にならないようゆっくり話をしたり、質問攻めにしない、あとは私だけが発言するのではなく、自然と発話できる空気作りですが、皆さんの協力もあって被験者の方が自然に意見を言いやすい環境になったと思います。
━ユーザーテストの結果、どのような改善点や示唆が見つかりましたか?
<河野さま>
長年、操作経験があるユーザーにテストしてもらい、よく使う機能やあまり使わない機能が明確になって、メニュー位置などを優先度に応じたレイアウトに調整できたのが大きかったですね。
<内藤>
今回の追加機能で概念が似た機能の名称などがユーザーを戸惑わせたようで、UXライティングとして、言葉の齟齬がなく適切な表現はなんだろうというのが非常に悩みどころでした。
<中村>
言葉の話でいうと、テストを通して説明文はあまり読まれず、スマホ感覚で直感的に操作する傾向が強かった箇所があって、言葉よりも感覚的な操作で使っていただけるようデザインを改善したのが印象に残っています。
<池田>
私は、試験走行中の助手席に置いた測定器との距離感や左手の親指で操作する場面が多いことなどの発見が印象的でした。それと予めボタンを大きめに設計していたことで、視認性や押し間違いの防止に役立っていることが確認できたり、その後のサイズ感調整にも活かせました。他にも細かいことを挙げればきりがないほど示唆はありましたね。
━多数の改善点を発見できたんですね。その後は納品まで滞りなく進みましたか?
<中村>
そうですね。明確な改善点が出たので比較的スムーズに調整をして納品できました。納品物は、「Figmaのデザインデータ」「コンポーネント集」「デザインガイドライン」などをお渡しして、今回は、すべての画面を作成したわけではないので、不足している画面については河野さんに引き継いで、現在対応していただいてます。
<河野さま>
コンポーネントを引っ張ってきて使いやすいように工夫してもらってますし、デザインルールやポイントも分かりやすくまとめていただいて、とても助かっています。現在作業を進めていますがとても使いやすいです。
━気付きや学びの多いプロジェクトですが、最後に一言ずつお願いします。
<中村>
当初は、計測器の理解にとても苦労して何度もお伺いしたのですが、都度、親切に教えていただきありがとうございました(笑)
デザインの際に、手書きラフやホワイトボードで皆さんとアイデアを出し合ってチームとして考えながら形にしていく時間、それと社内でも毎日進捗を確認し合いながら作業を進めていて、とても充実して実りあるプロジェクトだったと感じています。
<内藤>
既存のユーザーにもこれから出会うユーザーにも使いやすいものを目指しました。特にユーザーテストが今後の判断の指針として、残すべきものや改善すべきもの精査ができたことがとても良い経験になりました。全体を通して共和電業さんとテイ・デイ・エスがワンチームで進められたと実感しています。このプロジェクトがよい成果につながることを期待しています。
<池田>
当初、従来製品もある中で、残すべき機能と変更する機能のバランスが難しいなと感じていましたが、ユーザーテストを通して明確に線引きができましたし、私自身も多くの学びがありました。何より特殊な環境で使う産業機器だからこそ、操作する状況を想定したユーザーテストが効果的だということも改めて実感できました。私たちにも学びの多い貴重な経験をさせていただきました。ありがとうございました。
<堀内さま>
これまでは自社製品のソフトしか扱ってこなかったので、デザインの幅が広がるという経験があまりありませんでした。今回テイ・デイ・エスさんからプロの視点で多くのアドバイスをもらえたことがとても良い勉強になりました。測定作業は正確性と効率が大事なので、UIもそうですし、全体のUXについても今回しっかり考えたことは、私にも会社にも貴重な経験になったと思います。
また、デザインガイドラインを納品していただきましたが、エンジニアとしてルールがあることで作業効率も上がりますし、他製品にも応用できて操作性の統一感にもつながると感じました。こうした点もありがたかったです。
<犬伏さま>
私も同じような感想ですが、エンジニアとして社内だけを見ていたので、外の世界を知らずにいたなと感じました。今回、テイ・デイ・エスさんから質問されることで、「なぜこうなっているんだろう?」と改めて自社製品へ疑問を持ったり、「どうやったら機能も使いやすさも両立できるか」ということを改めて考えさせられました。
最近、「餅は餅屋」という言葉が好きなのですが(笑)やはり自分たちだけではなかなかこうしたレベルにはならないと実感もしましたので、今後もぜひご協力いただけるとうれしいです。
<魚住さま>
今回はじめてデザインが中心の打ち合わせに参加したので、「トンマナ」「ハンバーガー」「アフォーダンス」といった専門用語が飛び交い、最初は何の話かわからず戸惑いました(笑)私もハードウェアのエンジニアとして、UIをあまり意識せずに開発してきましたが、これからはハードやソフトと分野を問わず、総合的に使いやすい製品づくりが必要な時代だと感じています。
私たちの使命は、ユーザーのニーズに合った測定器をタイムリーに届けることなので、そのためにもテイ・デイ・エスさんのような外部のパートナーとも協力して、新たな価値を生み出し、お客様に満足していただける製品を作りたいと思います。
<河野さま>
私は特に、ユーザーテストの効果を強く感じました。今回は試せなかった他のユースケースについても、テストを実施してみたいです。こうした部分にもっと時間をかける価値があると思いました。
また、自分自身を含め、開発メンバーにデザインの大切さが体験を通じて自然と広がったのがとても良かったです。プロジェクトを重ねることで関係性も深まり、より効率的に進められる部分もあると感じています。今後はさらに違うメンバーも加えながら、またテイ・デイ・エスさんとこうした取り組みができれば嬉しいです。
━ご協力、ありがとうございました!
産業機器や業務システムのUX/UI改善について
産業機器や業務システムは、操作性やユーザビリティの向上が日々の業務効率や安全性、利用者の満足度に大きく影響します。私たちは、デザインレビューやユーザーテストを通じて、現状の課題抽出から具体的な改善提案、UIデザインやガイドラインの作成など一貫してサポートしています。
「システムや機器の操作が複雑で困っている」「ユーザー視点で課題抽出したい」「使い勝手を改善したい」といったお悩みをお持ちの際は、ぜひ気軽にご相談ください。
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