

そのビジョンは未来を見据えているか? 未来の社会変化から描く「ありたい姿」
こんにちは、TDSの池野です。テクノロジーの急速な進化や社会構造の変化により、私たちは「何が正解かわからない時代」を生きるようになりました。そのなかで、「自分たちはどこへ向かうのか」を示すビジョンの重要性が、あらためて問われるようになりました。そこでこの度、「不確実な時代のビジョンのつくり方・育て方」という連載をはじめます。どうぞよろしくお願いします。
さて、突然ですが、こんな悩みを抱えていませんか?
・「ビジョンは一応あるけど、誰も使っていない」
・「新規事業やDX推進の旗を立てたが、現場に伝わっていない」
・「採用メッセージが社内外でバラバラで、一貫性がない」
これらのビジョンが機能しない問題にはさまざまな要因がありますが、一度こう問いかけてみてください。「そのビジョンは未来を見据えているか?」と。この連載では、ビジョンに未来視点を持つことの大切さを、4回を通じてお伝えしていきます。第1回は概論として、その理由と実践の起点を整理します。
そもそも「ビジョン」とは何か──なぜ今、未来視点が必要なのか
ビジョンとは、「自分たちはどこへ向かうのか」を示す言葉です。経営ビジョン・プロダクトビジョン・DXビジョン・事業ビジョンなど、形はさまざまですが、ビジョンの代表的な役割として次の3つが挙げられます。
判断軸になる:何をやるか・やらないかを選ぶ基準
ベクトルをそろえる:組織内の認識やエネルギーの方向を統一する
共感をつくる:社員・顧客・パートナーを「同じ未来」へ引き寄せる
この3つが機能していないビジョンは、どれだけ言葉が美しくても組織の力になりません。私自身、これまで多くの企業のビジョン策定に関わってきましたが、「言葉はある、でも使われていない」という場面に何度も出会ってきました。
では、なぜ今「未来視点」が必要なのか。市場環境・テクノロジー・顧客ニーズが急速に変わり続けるなかで、現在の延長線上に未来を描くだけでは対応しきれない場面が増えています。重要なのは、未来の変化を探索しながら、自分たちのビジョンを描く発想です。この視点があるかどうかで、ビジョンの質は大きく変わります。
未来視点のあるビジョンをつくるための4つのアプローチ
では、どうすれば未来視点のあるビジョンを描くことができるのでしょうか。私たちは、次の4つのアプローチで、未来視点のあるビジョンをつくるお手伝いをしています。
①現状分析──自分たちの核心を深く知る
まず出発点となるのは、自社がこれまで積み上げてきたものの深い理解と分析です。強み・価値観・歴史・顧客から選ばれてきた理由──これらを丁寧に掘り下げることが、未来を描くための土台になります。これまで、ビジョンを考える上で必ず行われていた方法ですが、この連載ではさらに3つのアプローチをご紹介します。
②未来洞察──未来の変化を探索する
外部環境の変化を読み、目指すべき「ありたい姿」を定めることが、未来視点のあるビジョンの核心です。そのためには環境スキャニング・シナリオプランニング・バックキャスティングなどの手法が有効です。詳しくは第2回で解説します。
③言語化・可視化──ビジョンを言葉だけでなく「絵」で語る
ビジョンはこれまで言葉を使って伝えられてきましたが、それだけでは抽象的になりがちです。図や画像、ストーリーボードなどを使って視覚的に表現することで、組織全体への浸透が加速します。詳しくは第3回で解説します。
④未来思考の強化──社員一人ひとりに未来視点を根づかせる
ビジョンは、リーダーだけが描くものではありません。社員一人ひとりが未来視点を持ち、自分の仕事とビジョンを結びつけられるようになって初めて、組織の力になります。詳しくは第4回で解説します。
ビジョンは「つくる」だけでなく「育てる」もの
ビジョン策定でよくある失敗は、言葉をつくって満足してしまうことです。試行錯誤してつくり上げた言葉には愛着が湧きますよね。そして、WEBサイトのトップページに載せたり、キックオフで話したりして、社員にそのビジョンを伝えると思います。しかし、それだけではビジョンは組織文化になりません。言葉は存在しても日々の判断に影響を与えない──そうなった瞬間、ビジョンは形骸化します。
ビジョンを浸透させるには、日常の意思決定とコミュニケーションのなかで繰り返し「使う」必要があります。
新規事業・投資・撤退を判断するとき
採用面接で会社・事業の未来を語るとき
プロダクトの機能優先度やDX施策の優先順位を議論するとき
1on1で社員個人の目標と組織の方向性をつなぐとき
社員が見ているのは経営者や管理職がビジョンに沿った判断をしているかどうかです。言行不一致が続けば、ビジョンはかえって不信感の原因になります。言葉と行動を少しずつ一致させていく。それがビジョンを育てるということだと、私は考えています。
ビジョンを浸透させる「可視化」と「物語」
ビジョンを文章だけで伝えようとすると、どうしても抽象的になりがちです。そこで効果的なのが、未来のありたい姿を1枚の絵にするビジョンマップです。方向性・目標・行動基準の関係性を1枚に整理したビジョンマップは、全体像を直感的に把握するのに役立ちます。
また、その他にもストーリーボードを使った表現も、ビジョンの浸透に効果的です。未来のありたい姿を、言葉だけでなく場面として描くことで、ビジョンは抽象的なスローガンではなく、頭のなかでイメージできる「共有された未来像」になります。
近年は生成AIを活用することで、テキストで描いた未来の場面を画像やストーリーとして手軽に表現できるようになりました。ビジョンの可視化に、こうしたツールを取り入れることも一つの選択肢です。
ビジョンを「自分事」にする──未来思考を育てる
ビジョンの真価は、リーダーだけが語るのではなく、社員一人ひとりが自分の仕事とビジョンを結びつけられたときに発揮されます。
そのために欠かせないのが「未来思考」です。目の前の業務だけを見るのではなく、「この仕事はどんな未来につながるのか」「顧客や社会はこれからどう変わるのか」を考える力のこと。これは経営企画・新規事業担当だけのスキルではなく、営業・製造・管理・広報・人事・カスタマーサポートなど、すべての職種に関わるものです。
私たちは、ワークショップ形式の研修を通じ、社員の未来思考の強化をサポートしています。世界のメガトレンドやシグナルの読み方、それらの影響を類推する方法、未来の世界観を想像する方法など、実践的に学ぶ機会をご提供しています。その研修では次のような問いかけをすることがあります。
「〇〇年後、未来の社会や生活様式はどうなっているか?」
「〇〇年後、社会変化や技術革新は生活者の価値観をどう変えるだろうか?」
「〇〇年後、私たちが子ども世代に残したいものは何だろうか?」
「〇〇年後、そのビジョンを軸に今日からどのような行動を起こしたいか?」
ビジョン浸透では、これまで伝え方が重視されてきましたが、この変化の早い時代においては、伝える相手(社員)自身の未来に対する解像度を高めることも重要です。現場の社員にとって、世界のメガトレンドは遠い話のように聞こえるかもしれません。しかし、それらはどこかで必ず自分たちにつながっていると意識できるようになれば、未来に対する視野が広がり、日々の働き方や意思決定に良い効果をもたらします。
次回予告 第2回:未来洞察によるビジョンのつくり方
最後までお読みいただきありがとうございます。第1回は連載の概論をお伝えしました。この記事の内容が皆さまのお役に立てると幸いです。次回は、変化の兆しを捉え、複数の未来の可能性を整理し、自分たちらしいビジョンにつなげるための考え方と実践方法を解説します。それでは次回もお会いしましょう。






