

アクセンチュアのレポートで読み解く「AI時代の成長戦略」
AI と生成AIの急速な進化により、企業の価値創出プロセスや競争環境は大きく変わりつつあります。既存事業の強化から新規事業の創出まで、成長のあり方そのものが再定義されている状況です。
アクセンチュアが作成したレポート 『Navigating The Great Value Migration In The Age Of AI 2025』 では、AI時代に企業がどのように成長機会を捉えるべきかを体系的に整理しています。
本記事では、その内容をコンパクトに要約し、AI がもたらす成長の可能性を「3つの成長戦略軸」と「4つの重点アクション領域」に沿って解説します。
同レポートでは、現在のAI市場を次のように分析しています。
AI市場と企業成長の現状
・AI・生成AIへの注目は急上昇。S&P 500 IT指数は 前年比46%成長、年初来 約32%。
・AI成熟度が高い企業は、低い企業比で 前年比+3pt(4.7倍) の成長。
・G2000換算の累積差は 2.6〜3.6億ドル(2019年〜)。
AI導入企業の成果
・AI活用で事業を再構築した企業は 売上成長率が平均より15%高い。
・2026年には成長差が 37% へ拡大予測。
・差別化されたAI戦略を導入した企業は 株主総還元が5年で3倍。
将来のインパクト
・生成AIの大規模導入で 2038年までに10.3兆ドル以上 の新価値が創出。
・「AIで成長を狙う」プロジェクト数は 2025年までに6倍。
・2029年には企業の 67% が「AI=成長の最優先目的」に。
企業環境の変化
・企業の変化スピードは5年で 183%増、直近1年で 33%増。
・決算説明会でのAI言及回数は 370%増。
・AI関連求人は 2019年比2倍以上。
消費者行動の変化
・多くの消費者はチャットボットやパーソナライズの恩恵を実感。
・75%が購入意思決定に苦労しており、AIによる支援を期待。
・企業は「AI活用がロイヤルティと売上成長につながる」と確信。
このようにAIは、企業の価値創出の構造そのものを変えつつあります。もはや、オペレーション効率化だけでは成長スピードに追いつくことはできません。
AIを戦略的に活用できている企業は、
・意思決定の精度向上
・新市場への参入加速
・新しい価値機会の発見
といった領域で優位性を発揮しはじめています。
実際、アクセンチュアの最新調査では「経営層の約45%が、AIを用いて新製品アイデアの探索や新市場の発見をすでに行っている」と回答しています。
3つの成長戦略軸
こうした環境変化の中で、レポートは企業が成長機会を見出すための指針として 次の3つの成長戦略軸を提示しています。
① Growth Amplifiers(成長の増幅) — コア事業の強化
AIにより既存ビジネスモデルの収益性を高め、比較的短期間で価値を創出する戦略軸。
② Growth Expanders(成長の拡大) — 隣接領域の開拓
既存の強みや知的資産を活用し、新たな市場・顧客層へ拡張していく戦略軸。
③ Growth Entrepreneurs(成長の起業) — 新規事業・新収益モデルの創出
AIを活用して、全く新しい価値提案やビジネスモデルを構築する戦略軸。
これらは企業を分類するものではなく、 企業内で同時並行的に追求されうる「成長機会の方向性」 として位置づけられています。
また、この3つの領域が異なるのは主に以下の2点です。
・もたらす価値の規模(Total Growth Potential)
・価値が実現するまでの時間軸(Time to Benefit)
この関係性は、レポート内の以下の図で示されています。
それぞれについて解説します。
①Growth Amplifiers: — コア事業の強化
「Growth Amplifiers」は、AIを活用して 既存のコア事業を拡張し、加速させる ための戦略軸です。最も成果が出るスピードが早く、企業がすぐに価値を実感しやすいという特徴があります。
AIを取り入れる企業は、以下のような成果を上げています。
・これまで十分にアプローチできていなかった市場セグメントにリーチする
・既存顧客のニーズをより正確に予測する
・トップライン(売上)の成長につなげる
AIは、これまで
・把握されていない
・見過ごされていた
・活用されてこなかった
「隠れた情報」を引き出し、よりパーソナライズされ、魅力的で、収益性が高く、
そして“より人間らしい”顧客体験へと昇華させます。
その結果、AIはフロントオフィス全体をつなぐ重要な役割を果たしていきます。
■事例:
・Sysco(食品サービス大手)
生成AIを導入して顧客ごとの購買データを分析し、最適な品揃えや提案を自動化。
その結果、営業生産性が向上し、売上拡大に寄与しました。
・Best Buy(家電小売)
AIでコールセンター会話を自動要約し、必要情報をオペレーターへ提示。対応品質が向上し、顧客満足度とロイヤルティが改善しました。
・BBVA(グローバル銀行)
クラウド・データ・AI基盤を強化し、顧客理解の精度を徹底的に高めた結果、新規顧客は117%増、2023年には過去最高益を記録しました。
②Growth Expanders — 隣接領域の開拓
「Growth Expanders」は、AIを活用して 既存の強みや知的資産を横展開し、新しい市場・顧客へ進出するための戦略軸です。
既存事業の延長線上でありながら、コア事業とは異なる成長ポテンシャルを持つ市場機会を開拓できる点が特徴です。
企業はAIを活かしながら次のような動きを進めています。
・既存アセット(データ・製品・ブランド力)の再活用により、新しい顧客層へアクセスする
・保有する技術や知見を横展開し、新カテゴリーに参入する
・新しい収益源となり得る「隣接ビジネス」をスピーディに立ち上げる
これにより、企業は リスクを抑えながら事業ポートフォリオを拡大 し、将来の安定した成長基盤を獲得しやすくなります。
■ 事例
・健康食品ブランド
消費者データと生成AIを組み合わせることで、新しいヘルスケア領域のニーズを特定。
既存商品の延長でありながら、新たなカテゴリー(サプリメント・機能性食品など)への参入を実現しました。
・保険会社
従来の保険データをAIで解析し、予防医療サービスやウェルネス領域へ事業を拡大。
新しい顧客層の獲得につながりました。
・大手メーカー
製品技術データをAIで再構築することで、既存製造技術をスマートシティ領域に応用。
新たなBtoG事業(自治体向け)の収益源を開拓しました。
③Growth Entrepreneurs — 新規事業・新収益モデルの創出
「Growth Entrepreneurs」は、AIを活用して これまでにない新しい収益モデルや価値提案を生み出す戦略軸です。3つの領域の中で最も深い変革を伴い、長期的には最も大きな成長をもたらす可能性があります。
AIによって、これまで実現が難しかった
・新しい体験価値
・新カテゴリのサービス
・既存の業界構造そのものを変えるビジネスモデル
が現実的・短期間で立ち上げ可能になっています。
企業はAIを活用しながら、次のような動きを進めています。
・従来の延長ではない、まったく新しい価値提案の創出
・AIを活かして製品とサービスを融合したハイブリッド型モデルを構築
・業界のバリューチェーンそのものを再構築
・企業の枠を超えたオープンイノベーションの加速
AIは、単に業務を効率化する存在ではなく、「企業を新しい事業へ導くアクセラレーター」 となりつつあります。
■ 事例:
・Johnson & Johnson(MedTech)
Nvidiaと連携し手術室でAIを活用。リアルタイムでのインサイト提供や教育支援を可能にし、医療現場全体の意思決定プロセスを再定義する新しい医療モデルを構築しています。
・L’Oréal(ロレアル)
生成AI・データ・先進科学を統合し、「すべての人のための美容」から「一人ひとりのための美容」へと進化。AI診断ツール、パーソナライズ商品、スマートデバイス、デジタルサービスなど、新たな美容体験と複数の新収益源 の創出に成功しています。
「ロレアルはもはや化粧品会社ではなく、製品とサービスを提供する会社です。」
従来の化粧品メーカーの枠を超え、Tech × Beauty の新領域を事業として確立 しています。
あらゆる戦略軸で成長を加速する
AI の成長ポテンシャルを全ステージで活かすために、同レポートでは次の 4 つの重要領域で行動を起こすことを推奨しています。
① Hyper-personalized
超パーソナライズされた 製品、サービス、体験
②Rapid market assessments
隣接領域への迅速な市場評価
③Generative design
製品開発とイノベーションのための生成デザイン
④Dynamic planning
継続的な成長エンジンのための動的プランニング
一つひとつ解説します。
①超パーソナライズ体験でコア事業を拡大する
コア事業を最も効果的に強化する方法のひとつは、顧客一人ひとりの嗜好やニーズに合わせた 超パーソナライズされた製品・サービス・体験 を生み出すことです。既存の提供価値の関連性が高まることで、顧客満足度・LTVの向上、利益率改善、市場での優位性確保につながります。
生成AIはこの取り組みを支える重要な手段であり、膨大なデータからパターンを見つけ出し、ターゲットに響くキャンペーンやレコメンデーション、ソリューションを自動生成できます。
■ リーダーが取るべき行動
・強力なデータ基盤を整える
データ統合・分析を進め、生成AIが顧客の嗜好や価値ドライバーを深く理解できる環境を整備する。
・生成AIを顧客ジャーニー全体に統合する
意思決定からフォローアップまで、あらゆる接点でAIを活用し、長期的なロイヤルティ形成を支援する。
・パーソナライゼーション施策を継続的に最適化する
データに基づき施策を見直し、市場の変化に合わせて改善する。
②迅速な市場評価で隣接領域を開拓する
リーダーは、既存事業の外側にある 隣接市場や未開拓セグメント にも成長機会を見出す必要があります。保有する資産を活用した新ソリューションの開発は、事業のリーチを広げる鍵となります。
生成AIは、この領域でも非常に強力です。膨大な市場レポートやSNSトレンド、経済指標などを高速で分析し、これまで見えなかった 新しいトレンド・市場性・潜在的なターゲットセグメント を導き出します。
データが少ない領域でも、AIはパターンや相関関係を発見し、新しい価値提案・価格モデル・販売チャネルの検証を後押しします。
■ リーダーが取るべき行動
・生成AIで多様なデータを統合・分析する
市場の声を捉え、見落とされていたセグメントやトレンド、潜在的成長機会を明らかにする。
・AIで隣接市場を特定・評価する
新たな事業拡大の可能性を把握し、シナリオ分析によって各戦略のインパクトを見極める。
・継続的な市場評価プロセスを構築する
変化し続けるトレンドを追跡し、事業全体のアジリティを高めながら、新しい成長領域を素早く取り込む。
③生成デザインを活用して新しい製品・サービスを生み出す
多くの経営者は「顧客ニーズの変化に対応するまで1年以上かかる」と回答しています。しかし、価値観や期待が月単位で変化する現在では、計画が実施される前に陳腐化してしまうこともあります。
こうした変化のスピードに対応するには、AI主導の新しい製品・サービス・収益モデルを素早く立ち上げる力 が求められます。
生成AIはその中心的な役割を果たします。生成デザインの能力により、膨大なデザイン案を創出し、特定条件に最適化されたソリューションを提示できるため、企業はこれまで思いつかなかった革新的なアイデアを高速で試作できます。
その結果、
・プロトタイピングと反復のスピードが向上し
・市場投入までの時間を短縮し
・継続的なイノベーションが可能になる
といった大きな効果が期待できます。
生成AIの活用は物理的な製品だけでなく、サブスクリプションや従量課金モデル、カスタム型の提供モデルなど、新しい収益モデルの創出 にも貢献します。
■ リーダーが取るべき行動
1.AIを活用したあらゆる可能性を検討する
大胆なアイデアも含め、生成AIで市場トレンドや行動データを分析し、新たな収益機会やROIを評価する。
2.成長機会のポートフォリオを育成する
実現可能性・必要リソース・潜在リターンのバランスを見ながら、複数のアイデアを育てる仕組みをつくる。
3.生成デザイン能力を活用する
幅広いデザイン可能性を探り、開発プロセスを高速化し、性能・コスト・サステナビリティの最適化につなげる。
④動的なプランニングで持続的な成長エンジンをつくる
長期的な成長を実現するためには、急速に変化する市場に対応できる 動的で柔軟な戦略プランニング が必要です。従来の静的な年次計画では変化に追いつけません。
生成AIは、市場データや外部環境の変化をリアルタイムで分析し、
・市場の力学の理解
・新たな価値源(バリュープール)の特定
・複数シナリオの迅速なモデリング
を可能にします。
これによりリーダーは、成長のギャップを素早く認識し、より高精度で情報に基づく意思決定ができるようになります。
■ リーダーが取るべき行動
1.戦略立案プロセスに生成AIを統合する
生成AIで市場評価・シナリオ分析・予測を継続的に行い、環境変化に応じて戦略を適応させる。
2.継続的に適応する組織文化を育む
新しいインサイトや未来シナリオを社内で共有し、変化を受け入れ自走する文化をつくる。俊敏性と学習を重視することが成長の基盤になる。
3. クロスファンクショナルな“成長エンジン”を設計する
市場動向を常に監視し、成長のギャップや優先領域をレポートできる横断的なチームを構築する。
持続的な成長は、いま手にすることができる
同レポートは、急激な環境変化が企業に課すプレッシャーは大きい一方で、AI によって持続的な競争優位と新たな成長を実現できる時代が到来していると強調しています。
これまでは絶え間ない変化の中で価値を維持することは困難でしたが、AI の導入によって企業は変化を成長に転換することが可能になりました。
またレポートでは、成長機会はあらゆる領域に存在しており、それをつかむ企業は
・成長の源泉をこれまでとは異なる視点で捉え直し、
・どこで機会を発見し、どう追求するかを再定義し、
・AI を俊敏性・適応力の中心に据えた組織能力を構築していく
と指摘しています。
アクセンチュアは、こうした先行企業が既に新しい成長ライフサイクルを実現しており、他の企業もその道に続く必要がある、と結論づけています。
★レポート全文(英語)は、以下からお読みいただけます。
hyper-trends-2025.glide.page/dl/6471c6/s/a0ccac/r/9apgxPImrqoqKCIAm1cM
詳しい資料はこちらからダウンロード!
Hyper Island Japanチーム
北欧発のビジネススクール「Hyper Island」の日本チームです。
Hyper Islandのメソッドや思想をもとに、企業や個人の学びにつながる情報を発信しています。





