

すべてのリーダーが知っておくべき戦略フレームワーク7選
現代のビジネス世界で「本当に役に立つ」戦略フレームワークや計画モデルとは何でしょうか?
ポーターの5フォース分析からAFIフレームワークまで、これらのツールはリーダーが市場を分析し、成長戦略を設計し、チームを明確な方向性でまとめるのに役立ちます。
本記事では、最も実用的な戦略立案フレームワークを分かりやすく整理し、それぞれいつ・どのように使えば効果的かを解説します。
なぜ今も戦略フレームワークが重要なのか
変化のスピードがかつてなく速い今、業界が一夜にして変わり、組織にも同じスピードでの適応が求められる時代において、「戦略を持たない」という選択肢はありません。
しかし、戦略そのものも進化しています。
もはや5年計画をPDFにまとめて棚に置いておくような静的なものではなく、動的で、協働的で、常に進化し続けるプロセスなのです。
だからこそ、戦略フレームワークやモデル、ツールが重要になります。
戦略フレームワークは“答え”を与えてくれるものではありません。
それらは、より良い問いを立てるためのものです。
曖昧な状況を進むときこそ、チームと共に考え、優先順位をつけ、明確に行動するための共通の思考軸を与えてくれるのです。
新市場への進出、部門横断チームの連携、プロダクトロードマップの設計—どんな場面でも、これらのツールはあなたを支えます。
・見落としを減らしつつ、重要な意思決定を素早く行う
・抽象的な目標を具体的な行動計画に落とし込む
・チーム全体を共通の優先事項で揃える
・見逃していた機会やリスクを発見する
代表的な7つの戦略フレームワーク
では、どの戦略立案モデルやツールを知っておくべきなのでしょうか?
ここから、優れたリーダーやストラテジスト、事業開発担当者たちが日々活用している代表的なフレームワークを紹介します。
1. ポーターの5フォース分析(Five Forces):市場のダイナミクスを理解する
ポーターの5フォース分析は、収益性に影響を与えるマクロ競争環境を可視化するためのフレームワークです。単なる競合リストとは異なり、この手法は業界の成功を形づくるより深い構造的要因を明らかにします。
5フォース分析:
・競合他社との競争(Competitive Rivalry): 現在のプレイヤーは誰で、競争の激しさはどの程度か?
・新規参入の脅威(Threat of New Entrants): 新規プレイヤーが市場に参入するのはどれほど容易か?
・買い手の交渉力(Bargaining Power of Buyers): 顧客は価格や製品機能にどれほど影響を与えるか?
・売り手の交渉力(Bargaining Power of Suppliers): 供給業者は取引条件やコストを左右できるか?
・代替品の脅威(Threat of Substitutes): あなたの製品やサービスを置き換える代替手段は存在するか?
実例:
SlackがB2Bコミュニケーション市場に参入したとき、競合はすでに存在していました。しかし彼らは、メール(代替品の脅威)やMicrosoft Teamsのような既存プラットフォーム(競合)では、UXの期待に応えられていないことを見抜いていました。Slackはシンプルさとスピードを提供することで、飽和した市場の中に独自のポジションを築いたのです。
このフレームワークを使うタイミング:
新しい業界への参入、製品ラインの立ち上げ、長期的な投資判断の前などに活用します。
自社のビジネスモデルに対する外部圧力を評価し、その機会がリスクに見合うかどうかを見極める助けになります。
ヒント:
それぞれの力を具体的な事例でマッピングしましょう。実際のサプライヤー、代替製品、新興競合などを挙げることで、このモデルを単なる理論ではなく、戦略的意思決定を導く実践的なドキュメントに変えられます。
2. ビジネスモデル・キャンバス(BMC):1ページで価値を可視化する
アレックス・オスターワルダーによって開発されたビジネスモデル・キャンバス(Business Model Canvas)は、ビジネスの仕組みを探求・説明するための構造的かつ視覚的なフレームワークです。
特に、事業の初期段階や方向転換(ピボット)の際に有効です。
9つの構成要素:
1.顧客セグメント(Customer Segments):誰のために価値を創出しているのか?
2.価値提案(Value Proposition):どんな課題を解決するのか?
3.チャネル(Channels):どのように顧客に届けるのか?
4.顧客関係(Customer Relationships):どのような関係を築くのか?
5.収益の流れ(Revenue Streams):どのように収益を得るのか?
6.主要リソース(Key Resources):どんな資産が必要か?
7.主要活動(Key Activities):価値を提供するために何を行うか?
8.主要パートナー(Key Partnerships):誰と協力するか?
9.コスト構造(Cost Structure):主なコストは何か?
実例:
Airbnbは創業初期にBMCを活用し、ピアツーピア型プラットフォームをどのように拡大できるかを可視化しました。
「信頼」と「手頃さ」を軸にした価値提案を明確化し、ホストをパートナー兼コンテンツクリエイターとして位置づけたことで、軽量な運営モデルで急速にスケールすることができました。
このフレームワークを使うタイミング:
ビジネスがどのように価値を創出・提供・獲得しているかを360°で把握したいときに最適です。
ヒント:
チームワークショップで共創するのがおすすめです。付箋やMiro・FigJamなどのデジタルツールを使うことで、アイデアの反復とコラボレーションを促進できます。
3. マッキンゼーの7Sフレームワーク:内部システムの整合性を図る
組織がつまずく原因は、悪い戦略そのものだけではなく、内部の不整合(ミスアライメント)にあることが多くあります。
マッキンゼーの「7Sモデル」は、戦略と実行の間に潜む断絶を特定するための診断レンズを提供します。
7つの要素:
1.Strategy(戦略):競争優位を築くための計画
2.Structure(構造):組織図と報告系統
3.Systems(システム):業務フローとテクノロジー基盤
4.Shared Values(共有価値観):組織の中核となる信念や文化
5.Style(スタイル):リーダーシップやマネジメントのスタイル
6.Staff(人材):人員の役割・人数・能力
7.Skills(スキル):組織が得意とする能力領域
実例:
Spotifyが自律型のスクワッドやトライブ体制へ再編した際、変えたのは構造だけではありませんでした。
リーダーシップスタイルの刷新、コミュニケーションシステムの更新、成功の定義の再構築など、全方位的なアライメント(整合)を実現したのです。
このフレームワークを使うタイミング:
戦略自体は正しいのに実行が伴っていないとき、あるいは組織変革・チーム再編・文化的な不一致が起きているときに効果的です。
ヒント:
7つの要素を個別ではなく相互に関連づけて考えましょう。
チームセッションで「整合している要素」と「摩擦がある要素」を洗い出すのがポイントです。たとえば、戦略が優れていてもシステムがずれている場合、素晴らしいアイデアが形にならないという典型的な問題が起こります。
4. OGSM:ビジョンを実行につなげるフレームワーク
OGSMとは、Objectives(目的)・Goals(目標)・Strategies(戦略)・Measures(指標)の略で、戦略を実行に落とし込むためのシンプルかつ強力なフレームワークです。
OKR(Objectives and Key Results)よりも包括的で、戦略立案サイクル全体に適した構造を持っています。
構成要素:
・Objective(目的):全体のビジョン(定性的)
例:「環境に優しい食品包装で市場のリーダーになる」
・Goals(目標):具体的で測定可能な成果
例:「第4四半期までに欧州市場シェア25%を達成する」
・Strategies(戦略):達成のために取り組む主要施策やテーマ
例:「小売業者とのパートナーシップを通じて流通を拡大する」
・Measures(指標):成果を追跡するKPI
例:「顧客獲得コスト、リピート購入率」
実例:
あるサステナビリティ系スタートアップの場合:
・Objective: 2026年までにヨーロッパの持続可能な包装分野をリードする
・Goals: 12か月以内にB2B契約を100件獲得
・Strategies: FMCG(消費財)企業との提携に注力し、製品R&Dに投資
・Measures: 顧客獲得コスト、契約価値、解約率
このフレームワークを使うタイミング:
年次または四半期ごとの計画策定時、戦略の見直し時、あるいは複数チームが関わる新規プロジェクトを立ち上げるときに最適です。
ヒント:
OGSMは“生きたロードマップ”として扱いましょう。
四半期ごとに見直して更新し、スライド資料の中に埋もれさせず常に見える場所に置くことが大切です。
また、すべての戦略が少なくとも1つの測定可能な目標に紐づいているかを確認しましょう。
5. SWOT分析:現状を正しく理解する
SWOTとは以下の4つの要素の頭文字を取ったものです:
・Strengths(強み)
・Weaknesses(弱み)
・Opportunities(機会)
・Threats(脅威)
チーム単位や事業部レベルでの内部自己評価に広く使われている定番のフレームワークです。
実例:
ある専門特化型コンサルティング会社がSWOT分析を行った場合:
・Strength(強み): 医療業界における深い専門知識
・Weakness(弱み): SNSやデジタルチャネルでの認知度の低さ
・Opportunity(機会): テレメディスン(遠隔医療)関連プロジェクトの需要増加
・Threat(脅威): 大手コンサルティング企業が中堅市場に参入
各象限の考え方:
・Strengths(強み):あなたに優位性をもたらすものは何か?(例:ブランド力、知的財産、顧客ロイヤルティ)
・Weaknesses(弱み):成長を妨げている要因は?(例:古いツール、小規模なチーム、スキル不足)
・Opportunities(機会):成長の余地はどこにあるか?(例:新市場、未充足の顧客ニーズ)
・Threats(脅威):どんな外的要因がリスクとなりうるか?(例:景気後退、新たな規制)
このフレームワークを使うタイミング:
計画を立てる前に、自社やチームの現状を迅速かつ体系的に把握したいときに最適です。
ヒント:
SWOT分析は戦略合宿やオフサイトミーティングでの会話のきっかけとしても有効です。チームの中にすでに存在している認識や課題を「言語化する場」として機能します。
6. PESTEL分析:マクロ環境を見渡す
PESTEL分析とは、市場を形成する外部要因(マクロ環境)を理解するためのフレームワークです。
以下の6つの観点から外部環境を体系的にスキャンします。
Political(政治的要因):
税制、貿易規制、政治的安定性など、市場に影響を与える政府の行動や政策。
例:税法、貿易政策、政情の安定性。
Economic(経済的要因):
インフレ率、金利、失業率、経済成長率など、購買力や投資に影響する要因。
Social(社会的要因):
文化的トレンド、人口動態、消費者行動、ライフスタイルの変化など。
例:高齢化、サステナビリティ志向の高まり。
Technological(技術的要因):
AI、自動化、モバイル利用の拡大など、技術革新やデジタルインフラに関する要因。
Environmental(環境的要因):
気候変動、資源の枯渇、環境規制など、エコロジーやサステナビリティに関する問題。
Legal(法的要因):
労働法、データ保護法、知的財産権など、事業運営に関わる法律や規制。
SWOT分析が内外両面を見渡すのに対し、PESTELは外部環境に焦点を当てる点が特徴です。
未来に起こりうる変化を見通すための「望遠鏡」のようなツールです。
実例:
東南アジアへの進出を検討するモビリティ系テック企業の場合:
・Political: タイにおけるEV(電気自動車)インフラ支援政策
・Economic: 車の所有率が増加する成長中の中間層
・Social: 都市化の進展とサステナビリティ意識の高まり
・Technological: モバイルファーストのモビリティアプリの利用増加
・Environmental: 排出ガスや大気汚染への懸念
・Legal: 車両輸入に関する厳しい規制およびデータプライバシー法
このフレームワークを使うタイミング:
新しい地域・市場に参入するとき、または長期戦略を策定するときに最適です。
ヒント:
PESTELはリスクマッピングや初期段階のトレンド分析にも活用できます。
市場参入戦略を設計する際は、ポーターの5フォース分析やOGSMと組み合わせて使うと効果的です。
7. AFI戦略フレームワーク:分析・策定・実行
AFIとは、Analyze(分析)・Formulate(策定)・Implement(実行)の略です。
このモデルは、ビジネススクールや企業現場で広く使われており、リサーチから実行までの戦略プロセス全体を導く基本フレームワークです。
Analyze(分析):
市場・競合・トレンドなどの外部環境を調査し、社内のリソースを評価する。
Formulate(策定):
戦略の方向性を定め、競争優位の源泉を特定し、優先順位を設定する。
Implement(実行):
選択した戦略を、組織設計・業務プロセス・企業文化を通じて実行に移す。
実例:
新市場への進出を検討する小売企業の場合:
・Analyze: 現地の需要、競争環境、物流コストを調査。
・Formulate: 低価格帯との差別化のため、「プレミアムかつサステナブル」な製品でポジショニングを決定。
・Implement: サプライチェーンを最適化し、スタッフを研修し、現地向けのマーケティングキャンペーンを展開。
このフレームワークを使うタイミング:
戦略立案から実行までを一貫して行う包括的な戦略策定プロセスに最適。
企業の長期的取り組みやコンサルティングプロジェクトにも適しています。
ヒント:
「Analyze(分析)」の段階では、PESTELやSWOTなどのツールを組み合わせると、よりデータに基づいた堅実な戦略策定が可能になります。
適切なフレームワークの選び方
すべての答えを持つフレームワークは存在しません。
重要なのは、直面している課題に応じてどのツールを使うべきかを見極めることです。
あらゆる作業にハンマーを使うことがないように、戦略フレームワークも使い分けが必要です。
最も優れたリーダーたちは、どのフレームワークを、いつ、なぜ使うべきかを理解しています。
| ユースケース | 最適なフレームワーク |
| 新しい製品アイデア | BMC(ビジネスモデル・キャンバス)+ SWOT |
| 市場参入戦略 | ポーターの5フォース分析 + PESTEL |
| 年間目標設定 | OGSM |
| 組織再編またはスケールアップ | マッキンゼー7S |
| 投資家向けピッチ | ポーターの5フォース分析 + OGSM |
| チームの方向性を探るとき | マッキンゼー7S + SWOT |
| 戦略の全体設計(エンド・ツー・エンド) | AFIフレームワーク |
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Hyper Island Japanチーム
北欧発のビジネススクール「Hyper Island」の日本チームです。
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