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ファンがブランドを動かす時代へ—YouTubeのレポートに学ぶファンダムマーケティング戦略

2025.06.06 更新

#Hyper Island

Z世代を中心に、熱量の高いファンが自ら情報を発信し、コミュニティをつくり、ブランドや作品の広がりを生み出す時代が到来しています。
YouTubeが2024年に発表したレポート「Trends Fandom Report 2024」では、こうした「ファンダム」の影響力と、ブランドや企業に求められる新たな関わり方が明らかにされています。
本記事では、このレポートの内容を紐解きながら、ファンダムマーケティングの実践的なポイントと、求められる視点について解説していきます。

目次

    ファンダムとは?

    「ファンダム(fandom)」とは、ある対象に対して熱意を持って応援し、深く関わり合うことを指します。

    近年では、音楽・映画・アニメといったコンテンツだけでなく、インフルエンサーやスポーツチーム、さらにはブランドや商品そのものにもファンダムが形成され、独自の文化圏が広がっています。

    米国のマーケティングリサーチ機関 KR&I(Kelton Research & Insights)の定義によれば、ファンダムとは「人々とその対象との関係性」であり、そこには共感や高揚感、献身的なエネルギーが存在します。

    そして、SNSや動画プラットフォームなどのテクノロジーの発展により、ファンと“推し”との距離は劇的に縮まりました。視聴するだけでなく、自らコンテンツを生み出し、拡げ、他のファンとつながる時代が到来しています。

    企業やブランドにとって、この熱量を持ったファンダムは、単なる消費者以上の存在です。今、マーケティングの主戦場は、マスの説得よりも「ファンとの共創」へとシフトしつつあるのです。

    データで見るファンダム

    ファンダムは、もはや一部の熱狂的なファンの話ではありません。今や、あらゆるジャンル・あらゆる世代に広がる文化現象となり、消費行動やコンテンツの潮流に大きな影響を与えています。「Trends Fandom Report 2024」では、最新の調査データをもとに、ファンダムがどのように形成され、どのような価値を生み出しているのかが明らかにされています。この章では、その調査結果から、現代におけるファンダムの広がりと変化の実態を見ていきます。

     

    85%は「自分は何かのファン」と自認

    14〜44歳のオンラインユーザーの85%が「何かまたは誰かのファンである」と自認していることがわかりました。これは、ファンダムが特定の層だけのものではなく、多くの人々のアイデンティティや日常に深く根付いていることを示しています。
    (出典:Google/SmithGeiger, YouTube Trends Survey, 2024年5月・米国、N=1000)

    ファンの約8割が週1以上、推し関連コンテンツを視聴

    14〜44歳のオンラインファンの約80%が、週に1回以上はYouTubeで自分が熱中している対象に関するコンテンツを視聴していると回答しました。これは、ファンが日常的にYouTubeを通じて情報や体験を深めていることを示しており、ファンダムが継続的なコンテンツ消費行動に直結していることがうかがえます。
    (出典:Google/SmithGeiger, YouTube Trends Survey, 2024年5月・米国、N=847)

    ファンの4段階とその行動特性

    調査によると、14歳から24歳までのZ世代のファンは以下のように分類されます。それぞれの特徴と割合は以下の通りでした。

    • カジュアルファン(Casual fan):全体の42%。比較的ライトに楽しんでいる層で、趣味の一環としてファン活動をしている層
    • ビッグファン(Big fan):29%を占め、一定の熱量をもってコンテンツに関わっている層
    • スーパーファン(Super fan):21%。深い情熱とコミットメントを持ち、頻繁にコンテンツを視聴・共有するなど、積極的な活動をしている層
    • プロフェッショナルファン(Professional fan):8%と少数派ながら、非常に高い関与度を示す層で、ファン活動を通じて収入を得ており、ライフワークのようにしている層

    このように、Z世代の約6割が“深い関心”を持つファン層(Big fan以上)として分類されており、ファンダムが若年層の生活やアイデンティティ形成において大きな役割を果たしていることがわかります。
    (出典:Google/SmithGeiger, YouTube Trends Survey, 2024年5月・米国)

    Z世代の66%、「考察系」「レビュー」コンテンツを優先視聴

    Z世代の66%が「作品そのもの」よりも、それについて語ったり解説したりするコンテンツをよく視聴していると回答しました。

    これは、Z世代が「考察動画」や「レビュー」「リアクション」など、周辺コンテンツにより多くの時間を費やしていることを示しており、ファンダムが単なる視聴体験を超えた“参加型文化”へと進化していることを表しています。
    (出典:Google/SmithGeiger, YouTube Trends Survey, 2024年5月・米国、N=350)

    「一人ファン」でもつながれる時代に

    Z世代の47%が「自分以外にリアルな知人がいないファンダムに所属している」と回答しています。

    このデータは、ファンダムが必ずしも身近な人との共通項でなくても成り立ち、むしろオンラインを通じた“個と個”のつながりで広がっていることを示しています。Z世代にとって、ファンダムは現実の人間関係に縛られない、自分だけの情熱を共有できる場所となっているのです。
    (出典:Google/SmithGeiger, YouTube Trends Survey, 2024年5月・米国、N=312)

    Z世代の74%が「推しに関わるブランド」に好意的

    14〜24歳のZ世代で自らを“ファン”と認識している人の74%が、「自分が熱中している対象にブランドが関わっている様子を見るのが好きだ」と回答しています。

    この結果は、Z世代にとってブランドがファンダム文化に“参加する”ことが、単なる広告やプロモーションを超えた共感の表現として歓迎されることを示しています。つまり、ブランドがファンの熱量や文化に寄り添う姿勢を見せることで、より強い好意や信頼につながる可能性があると言えるでしょう。
    (出典:Google/SmithGeiger, YouTube Trends Survey, 2024年5月・米国、N=312)

    ファン=消費者から“共創者”へ

    Z世代の65%が自分自身を「クリエイター(創作活動を行う人)」だと考えていることが明らかになりました。さらに、自らを“ファン”と認識しているZ世代のうち8%は、自分の創作活動によって収入を得ている「プロフェッショナルファン」だと回答しています。

    この結果は、ファンダムが「コンテンツを受動的に楽しむもの」から、「自ら作り、発信し、収益化する活動」へと拡張していることを示しています。Z世代にとって、ファンであることはクリエイティブな自己表現の手段であり、時にはキャリアの一部にもなり得るのです。
    (出典:Google/SmithGeiger, YouTube Trends Survey, 2024年5月・米国)

    ファンダムマーケティングとは?

    このようなファンダムの広がりを背景に、注目されているのが「ファンダムマーケティング」です。ファンダムマーケティングとは、熱量の高いファンコミュニティ(=ファンダム)の力を活用し、ブランドやコンテンツの「認知」「共感」「拡散」を自然に促すマーケティング手法です。

    近年では、ファンが自ら制作する二次創作コンテンツ(たとえば、リアクション動画やファンアート、考察・解説動画など)がSNSを通じて広く共有されることで、オリジナルの価値を何倍にも膨らませるような動きが活発化しています。

    中には、自らのファン活動を収益化する“プロファン”も登場しており、単なるファンとブランドの関係を超えて、共創的な文化が生まれつつあります。こうした背景から、企業やブランドも「ファンに寄り添う姿勢」「コミュニティへの理解・共感」がより強く求められるようになっています。

     

    ファンダムマーケティングの成功事例

    「Trends Fandom Report 2024」では、ファンダムの熱量をうまく活用し、成功を収めた事例がいくつか紹介されています。以下では、そうした代表的なケースを取り上げながら、ファンダムマーケティングの具体的な効果や可能性を見ていきます。

     Taylor Swift の例:ファンダムによる“予習コンテンツ”が新規ファンを育成

    YouTubeは、大規模で熱量の高いファンコミュニティへの入り口であると同時に、一般にはあまり知られていないニッチな関心にもアクセスできるプラットフォームです。その好例が、2023年~2024年に開催されたテイラー・スウィフトの「Eras」ツアーです。

     この3時間に及ぶコンサートを十分に楽しむためには、テイラーの過去の音楽作品や歌詞の背景、彼女自身のパーソナリティ、そしてマーケティングの手法に至るまで、深い理解が求められました。ライトなファンにとってはハードルが高く感じられるこの情報の壁を、YouTube上のファンダムが見事にサポートしていたのです。

     たとえば、あるクリエイターは、テイラー・スウィフトの歌詞考察、カルチャー的影響、ファンダム内での“友情ブレスレット”の作り方などをテーマにした動画エッセイを多数公開。こうしたコンテンツが、新規ファンの“予習”の場となり、スーパーファンへの育成にもつながっています。

     YouTubeは、ただの動画視聴プラットフォームではなく、ファンダム文化を形成・拡張するための“学びと共感の場”としても機能しているのです。

    わずか2話で巨大ファンダムを形成した「The Amazing Digital Circus」

    アニメーション作品『The Amazing Digital Circus(TADC)』は、GLITCHとGooseworxによって2023年秋にYouTube上で公開されたダークコメディ作品です。公開されたのはたった1話のみでしたが、そのパイロット版は瞬く間に3億回を超える再生回数を記録し、大きな話題となりました。

    しかし注目すべきは、作品そのものの人気だけではありません。その後、第2話が公開されるまでの約6か月間に、ファンによって生み出された二次創作コンテンツ――たとえば、オリジナルの楽曲、解説動画、ファンアート、ミームなど――が爆発的に広がり、累計で250億回以上の再生回数を記録しました。

     この現象は、熱量の高いファンダムがコンテンツの寿命を大きく超えて成長・拡散していくことを示しています。公式コンテンツが少ないにもかかわらず、ファンたちは自ら語り、解釈し、創作し合うことでコミュニティを拡張させていったのです。

    TADCのようなケースは、「コンテンツの量よりも、共感を生む世界観やキャラクター設定、そしてファンダムによる参加性」が重要であることを物語っており、ファンダムマーケティングの可能性を象徴しています。

    ファン文化と共創した成功事例:マクドナルドのアニメファン向け施策

    マクドナルドは、ファンダム文化を巧みに取り入れたマーケティングで、若年層との新たな接点を生み出しています。特に注目されたのは、アニメファン層をターゲットにしたキャンペーンです。

     この施策では、アニメ作品内でしばしばパロディ的に描かれる「WcDonalds(ワクドナルド)」という架空のファストフード店を逆輸入する形で、公式キャンペーンとして展開。さらに、アニメのファン文化で根強い人気を持つAMV(アニメ・ミュージック・ビデオ)形式を活用し、あえて“ファンが作ったかのような”公式映像を制作しました。

    また、2023年には紫色のドリンク「グリマーズ・シェイク」がSNS上で話題沸騰。ファンが次々にショート動画やミーム、トレンドを生み出したことで、このキャンペーンはアメリカでその年のYouTubeトレンド2位にランクイン。関連動画は数十億回再生されるほどのバズを生み出しました。

     この事例は、企業がファンダムに対して一方的に発信するのではなく、共に遊ぶ・共に創る姿勢を持つことで、大きな共感と拡散を得られることを証明しています。重要なのは、ファンの創造性に制限をかけるのではなく、むしろそれを歓迎し、活用するスタンスなのです。

    ファン文化と共創した成功事例:ガンダムとファンダムマーケティング

    ここで、日本における事例もご紹介いたします。ガンダムは、戦争や人間関係といった複雑なテーマを描くことで、深い考察や語りを呼び起こし、多層的なファンダムを築いてきました。特に注目すべきは、プラモデル「ガンプラ」を通じて、ファンが自らの手で作品世界を再構築・表現できる仕組みが確立されている点です。ガンプラの改造や塗装を競うコンテスト、SNSでのハッシュタグキャンペーンなど、ファンの創作活動が可視化される場も豊富に提供されています。

    また、イラスト・漫画・小説・コスプレ・MADムービー・MMDといった多彩な二次創作が展開され、ファン自身が“共創者”として作品の魅力を広げています。これを支えるのが、版権元の比較的寛容な姿勢です。著作権に過度に縛らず、ファンの表現をある程度許容することで、創造的なエコシステムが生まれています。

    ファンダムマーケティングの実践ポイント

    企業やクリエイターは、こうしたファンダムの力をどのようにマーケティングに活かせばよいのでしょうか。

    「Trends Fandom Report 2024」では、ファンダムと良好な関係を築き、その熱量をマーケティングに取り入れていくための実践的な提言がまとめられています。
    ここからは、レポートに基づいた4つの重要なポイントを紹介しながら、ファンダムと共にブランド価値を高めていくヒントを探っていきます。

    1.コンテンツの“使われ方”を観察し、熱量のある層に注目する

    同レポートでは、ファンダムを活用したマーケティングにおいて重要な視点として、「自分たちのコンテンツがどのように“使われているか”に注目すること」を提言しています。

    もはや成功の指標は、公式コンテンツの再生数や人気だけではありません。実際、ファンによって作られたリアクション動画や解説動画などの“二次創作”コンテンツが、本編よりも大きな注目を集めるケースも増えています。

    そのため、ブランドやクリエイターは、ファンがどんなコンテンツを作り、どんな反応を示しているのかを日々観察し、どこに熱量があるのか、何が共感を呼んでいるのかを理解することが重要です。それこそが、今後のコンテンツ戦略やコミュニケーション設計に活きるインサイトになるのです。

    2.「文化的存在感」を高めるには、コンテンツの“自由な再解釈”を許容する

    同レポートでは、「カルチャーにおける存在感(=文化的な関連性)を最大化したいなら、コンテンツの“所有感”を緩めることが必要だ」と提言しています。
    つまり、ファンが自分たちのスタイルで作品をリミックスしたり、再解釈・再編集したりすることを制限せず、むしろそれを歓迎する姿勢が、ブランドやクリエイターにとって重要だということです。

    実際、ファンはどのみちあなたのコンテンツで“遊ぶ”もの。であれば、それを阻むのではなく、関係性を深めるチャンスとして活用すべきなのです。ファンの創造性を尊重することが、結果としてより強固で信頼に満ちたファンダムを育む基盤になります。

    3.ファンの「熱中」に寄り添い、自分たちの「想い」も伝える

    同レポートでは、ファンが熱中していることに敏感に反応し、同時に自分たちの情熱も積極的に発信することが、ファンダムとの強く本質的なつながりを築く鍵だと指摘しています。

    これは、ブランドやクリエイターが「自社や自作品に関係することだけを発信する」という従来の姿勢から一歩進み、ファンと共通の“好き”や“価値観”でつながることの重要性を示しています。

    たとえば、あるブランドが社会的なムーブメントやカルチャー的なトレンドに共感を示したり、自社と直接関係のない分野でも情熱を持って取り上げたりすることで、「このブランドは私たちの価値観を理解している」とファンに感じさせることができます。

    その結果、単なる“消費者と発信者”という関係を超えて、共感で結ばれたコミュニティとしての絆が生まれていくのです。

    4.ニッチな熱狂にこそ、未来の主流が隠れている

    同レポートでは、「今はニッチに見えるものが、明日のメインカルチャーになるかもしれない」という視点も強調されています。

    YouTubeのようなオープンプラットフォームでは、ジャンルやテーマの大小を問わず、あらゆるファンダムが24時間・世界中でつながり、コンテンツを発信し合うことができます。つまり、「一見マイナーなムーブメント」にも、世界中の共感者と熱量が集まり、大きなトレンドへと成長する可能性があるのです。

    このため、ブランドやクリエイターは、「まだ早い」「ニッチすぎる」と感じるテーマであっても、好奇心と柔軟性を持って受け入れ、関わっていくことが重要だとレポートは提言しています。

    “今は小さな熱狂”が、“未来の主流”になる
    そうした予兆をいち早くキャッチし、ファンと一緒に育てていく姿勢が、これからのファンダムマーケティングの鍵となっていきます。

    今後の展望と課題

    ファンダムマーケティングが広がる一方で、ブランドやクリエイターにとって重要なのは、ファンの熱量を“煽る”のではなく、自然と共創が促進される環境をつくることです。

    同レポートでも、「ファンは企業や制作者の許可を待たずにコンテンツと関わり、拡張し続けている」と指摘されています。無理にコントロールするよりも、ファンの創造性を尊重し、遊び心やアレンジを受け入れる姿勢が、持続可能な関係性につながると示唆されています。

    また、今後の重要なトピックの一つが、生成AIとファンダムの関係性です。
    誰でも簡単に画像や音声、テキストを生成できる時代において、ファンによる二次創作やパロディ、リミックスコンテンツのハードルは劇的に下がっています。これは、これまでファンダムに参加できなかった層が創作側に回るきっかけにもなりうる一方で、著作権やブランドイメージの保護など、新たな課題も浮上しています。たとえば、生成AIで作られた“ジブリ風”の画像がSNSで注目を集める一方で、「ジブリらしさの模倣」に対する批判も巻き起こっており、創作の自由とブランド保護のバランスが改めて問われています。

    今後は、「創作を歓迎する文化」と「適切なガイドラインや共存ルール」の両立が、ブランドとファンダムの健全な関係構築において鍵を握ると言えるでしょう。

    まとめ

    YouTubeによる「Trends Fandom Report 2024」から見えてくるのは、ファンは単なる受け手ではなく、ブランドと共創する存在になっているということです。
    ファンダムは自発的な熱量から生まれるものであり、それを無理に操作することはできません。だからこそ、マス広告だけに頼るのではなく、熱心なファンの創造性や声に目を向け、それを活かすことが今後のマーケティングの鍵となります。

    Z世代を中心に、ユーザーは「語られたコンテンツ」や「共有される体験」に価値を見出しています。ファンダムの視点を自社のコンテンツやプロダクト設計に取り入れ、ファンが自然に関わりたくなるような“余白”を残すことが、ブランドとのより深い関係性を生む第一歩となるでしょう。

    Trends Fandom Report 2024(英語版)は、こちらからダウンロードすることが可能です
    https://hyper-trends-2025.glide.page/dl/6471c6

    詳しい資料はこちらからダウンロード!

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